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鳥取家庭裁判所米子支部 平成4年(少ロ)1号 決定 1992年12月22日

少年 T・J(昭48.12.26生)

主文

本件については、補償しない。

理由

1  当裁判所は、平成4年10月5日(以下の年月日はいずれも平成4年のものである。)、本人に対する同年少第254、301、302号窃盗、同未遂保護事件において、送致された7件の窃盗の送致事実のうち、6件の窃盗の事実を認定したうえ、本人を保護観察に付する旨の決定をするとともに、7月27日の窃盗の事実(以下「本件」という。)については、その事実が認められないことを理由として、本人を保護処分に付さない旨の決定をした。

一件記録によれば、本人は8月17日に本件で逮捕され、同月19日に本件及び審判でその存在が認められた8月10日の窃盗の事実で勾留されたうえ、同月28日に当裁判所において観護措置決定を受け、9月21日まで少年鑑別所に収容されたことが認められる。

2  そこで検討すると、一件記録によれば、上記各窃盗の事実はいずれも本人が成人共犯と自動販売機荒らしをしたというものであり、本人は逮捕直後からこれらの余罪の存在を自白していたことが認められ、これによれば、8月10日の窃盗の事実のみによっても勾留及び観護措置決定がなされていたものと認められ、本件の捜査のため勾留及び観護措置の期間が長期化したような事情も認められない。

また、本人に対する逮捕は本件のみを被疑事実としてなされているが、一件記録によれば、本人が逮捕直後から余罪の存在を自白していたことから、逮捕当日の8月17日に上記8月10日の窃盗及び審判でその存在が認められた7月10日の窃盗の現場についても引き当たり捜査がなされ、本人の立会により右各現場の実況見分が行われたことが認められ、これによれば、逮捕による身柄の拘束は8月10日の窃盗及び7月10日の窃盗の捜査のためにも利用されていたものと認められる。

3  よって、少年の保護事件に係る補償に関する法律3条2号に該当するので同条本文により本人に対し補償の全部をしないこととし、同法5条1項により主文のとおり決定する。

(裁判官 太田雅也)

〔参考〕 保護事件(鳥取家米子支 平4(少)254、301、302号窃盗、同未遂保護事件 平4.10.5決定)

主文

少年を鳥取保護観察所の保護観察に付する。

本件送致事実中平成4年7月27日の窃盗の事実については、少年を保護処分に付さない。

理由

1 非行事実

司法警察員作成の平成4年8月19日付け、同月31日付け及び同年9月21日付け各少年事件送致書記載の犯罪事実(但し、同年7月27日の窃盗の事実を除く。)と同じであるからこれを引用する。

2 適用法条

刑法235条、60条(未遂罪につきさらに同法243条)

3 補足説明

本件送致事実中、平成4年7月27日の窃盗の事実(以下、「本件」という。なお、以下の年月日はいずれも平成4年のものである。)は、「少年は、Aと共謀の上、7月27日午前3時ころ、米子市○○××番地○○株式会社○○支店屋外○○展示場において、同所に設置中の自動販売機2台からB他1社所有の現金9万2,400円位及びコインメック1個他12点位(時価合計6,200円位相当)を窃取した」

というものである。

関係証拠によれば、本件の捜査及び審判の経緯は以下のとおりであったと認められる。

<1> 7月26日午後9時ころから翌27日午前9時ころまでの間に、上記展示場に設置された2台の自動販売機の前扉がバール様のものでこじ開けられ、在中の現金が受皿ごと窃取される事件が発生した。米子警察署が、27日、犯行現場付近を実況見分したところ、展示場床面に自動販売機に至る同一足跡3個を、2台の自動販売機の中間に設置されているテーブル上に右足跡とは種類の異なる足跡2個をそれぞれ発見し、ゼラチン紙で転写採取した。

<2> 8月16日、別件で逮捕されたAが、少年と一緒に7月下旬ころの午前3時ころ上記展示場において自動販売機2台をバールでこじあけ現金を受皿ごと盗んだ旨自供した。米子警察署は、上記展示場において本件以外に窃盗事件が発生していないこと、自供にかかる犯行態様及び被害金額が被害状況とほぼ一致すること、遺留足跡が2種類であり、うち1種類の足跡とAが逮捕時に使用していた履物の模様が同一と認められたこと等から、Aの供述に信憑性があると判断し、同日、少年に対する逮捕状の発付を得、翌17日、少年を逮捕した。

<3> 少年は、同月17日の弁解録取では本件犯行を認めていたが、同日に行われた犯行現場の引き当たり終了後、初めて来る場所であるとして、盗みをしたかどうか解らない旨の供述をし、同月19日の検察官の弁解録取及び勾留質問では犯行を認めたものの、勾留中の取り調べでは明確に本件犯行を否認するようになり、観護措置の際の陳述録取、調査及び審判を通じ、否認の供述を維持している。

<4> 一方、Aは、捜査官に対しては、少年が否認に転じた後の取り調べにおいても従前の供述を維持し続けたが、9月21日の当裁判所の証人尋問において、最初は少年と一緒に本件を敢行したと思っていたので捜査官にもそのように供述したが、その後よく思い出してみたところ、本件は同人が単独で敢行したものである旨証言するに至った。

<5> 米子警察署は、8月16日、「捜査すべき場所」を少年の住所、「差し押さえるべき物」を本件の被害品及びバール1本として捜索差押許可状の発付を得、翌17日、右場所を捜査したが、目的物の発見に至らなかった。また、犯行現場に遺留されていた2種類の足跡のうちAのものと認められなかった足跡と、少年が犯行当時着用していた履物の模様の異同については、少年が犯行当時着用していた履物が特定できなかったとの理由により、裏付捜査がなされなかった。

<6> 少年は、本件送致事実以外にもAとともに多数の同種窃盗事件を敢行したことを自認しており、逮捕当日にこれらのうち12件の犯行日時、犯行場所、被害者被害品、犯行状況を記載した申述書を捜査官に提出している。

以上の事実に基づき検討するに、少年は、本件を除くその余の窃盗事件については、立件されなかったものを含め逮捕直後から素直に事実を認めているのであって、自己の罪責を軽減するためことさら本件についてのみ虚偽の供述をしているとは認められないし、本件についてのみ犯行時の記憶が欠落したような形跡もうかがえない。

他方、Aは本件が同人の単独犯行である旨証言しているところ、同人が捜査官に対しては少年が否認に転じた後も従前の供述を維持していることや、犯行現場に2種類の足跡が遺留されていたことに照らすと、右証言を全面的に信用してよいかについては疑問の余地がないではないが、関係証拠によって認められるAと少年との関係に照らし、Aが少年を恐れてその面前で虚偽の供述をした可能性は考えられず、このような供述の変遷が同人の捜査官に対する供述の信憑性を減殺する事情となることは否定できない。

以上によれば、Aの捜査官に対する供述のみから本件がAと少年の共犯事件と認定するには疑いが残るというべきであるから、少年法23条2項により、本件については少年を保護処分に付さないこととした。

4 処分の理由

少年に対する少年調査票、松江少年鑑別所鑑別結果通知書及び審判の結果等を併せ考えると、少年の健全な育成を期するためには、その性格、これまでの行状、環境等に鑑み、相当期間鳥取保護観察所の指導監督を受けさせるのを相当とするので、少年法24条1項1号、少年審判規則37条1項を適用して主文のとおり決定する。

(裁判官 太田雅也)

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